チーバガボンド

自然界に学ぶチーム論

2016.02.23

「群れのルール」(東洋経済刊) ピーター・ミラー

群れのルール

 

「群衆の叡智を賢く活用する方法」というサブタイトルがついています。別に
「虫、鳥たちに学ぶ、集団ですごい成果を生み出すシンプルな法則」ともあるのです。
これは、「ナショナル ジオグラフィック」シニアエディターという肩書のジャーナリストが、事実ベースに仕上げたもので、ノンフィクションの読み物としても、とても楽しめました。
ただ、この現状から、我々は何を学べるのか? すこし考えてみたいと思います。

アリやミツバチ、鳥や魚の集団行動に着目して、個々よりも集団になることで、賢くなる事例を紹介しています。例えば、アリの生態から。
「その日、何匹のアリを餌集めに送り出すべきかの意思決定は、パトロールに出たアリの数と正しい頻度で戻ってくることが基準で、餌集め担当が、餌を探しに行く」それだけのメカニズムです。これを「自己組織化」と呼んでいます。
また、ミツバチが新しい引っ越し先を決めるプロセスです。まず偵察隊が探しに行き、戻ってきて、腰振ダンスでお勧めの巣候補を示します。それを見ていたほかのミツバチが人気投票をしていき、最終的に新しい家を決定するのです。一番良い巣に賛同者が集まってくるため、結果的にベストな引っ越し先が決まるのです。
さらに、シロアリやムクドリ、イトヨリ、砂漠バッタの生態を観察して、到達したのが、〝一匹は賢くないが、コロニーは賢い〟というものです。

これらをまとめて、いくつかのキーワードが出されています。
・自己組織化(分権的な統制、分散型の問題解決、多数の相互作用)
・多様性 多様な中から選択されるメカニズム
・間接的協働 単純なシグナルで相互に動く
・適応的模倣 周囲6~7匹を真似る
・規模の適正 個々の密度が重要になる

これらのキーワードは、「なるほど」と興味を持ったものの、果たして我々人間であり事業を生業にしている企業チームに役立てることが出来るのだろうか? と単純に疑問を持ったのです。
自己組織化は、「複雑系」で出てくる言葉です。自己組織化していくには、混沌とした状況が必要ですが、多くの企業は、混沌状態を解消してきて今があるのですから、混沌状態を作り出すのはいささか難しくなっています。
多様性も、「ダイバーシティ」と最近語られる言葉です。但し、日本では、結果的に女性活用と、障害者雇用が議論の中心で、性差や年齢を超えた議論になっていません。
間接的な協働も、個が自分の役割を全うしている場合に成り立つとすれば、ビジネスマンは個々が一人分の役割を担えているのかが問われます。
「適応的模倣」も同様に個の動きが「絶対である」ことが前提になります。
「規模の適正」はどうでしょうか? メンバーの物理的距離が縮まるとコミュニケーションが円滑になったという書籍はありましたので、あながちズレてはなさそうです。ただ、人間の場合、物理的距離よりも「心理的距離」の影響を抜きに考えられないでしょう。嫌いな人に近づかれる「憂鬱さ」は如何ともしがたいものですからね。

さて、昨年の日経新聞、5月24日付の「適度なノイズは効率アップ」という記事の中で、より問題が複雑になった場合は、「普通アリ」に対しての「気まぐれアリ」と「真面目ライオン」に対して、たまに寄り道する「普通ライオン」が存在する方が、最適解に導く時間が短縮されるようです。これを「集団における確率共鳴の例」だとのことです。
「時に想定外の動きをする異端児の存在」が大事ということです。

なんとなく、感覚的に「あるある」と思うものの、本当に異端児を受け入れられるのか?
そこに尽きるのではないでしょうか?

社会学者のジャニスが指摘するように優秀なメンバーを集めた集団では、「集団の無知」の現象が起こる。それは、社会性があり、職位や年齢等々、相手や仲間を慮る気持ちが、単純な〝ちょっとおかしいのでは〟というシグナルや感覚的な危機感を飲み込んで、従ってしまうこともあるのです。
また、自分たちが苦労して決定したことを、「いい議論だったから、いいアイデアのはず」と肯定的なバイアスをかけてしまうメカニズムもあります。
こんなことは、昆虫や動物ではありえないのでしょう。

さて、我々は、昆虫と何が違うのでしょうか? 一人で生きていく能力が低下しているのでしょうか? とつい考えてしまいました。

本当の素の自分で勝負できるのか。そのために感性を磨いておかねばならないのだろう。
「自分で考え、自分で行動し、結果に責任を負うこと」すごく当たり前なんですが、あまりに社会システムが出来上がってしまった環境の中にいることで、弱くなってしまったのではないでしょうか?
おそらく、そこに学びがあるのだと思います。
我々、社会的な存在である人間は、身にまとったものが大き過ぎるのかもしれません。

トシユキ

株式会社ヒューマンロジック研究所 代表取締役

古野 俊幸(ふるの・としゆき)

関西大学経済学部卒。
新聞社、フリーのジャーナリストなどを経て、1994年、FFS理論を活用した最適組織編成・開発支援のコンサルティング会社・CDIヒューマンロジックを設立。
CDIヒューマンロジックのホールディングカンパニーとして、1997年に株式会社イン タービジョンを設立し取締役に就任。2004年4月からインタービジョンの代表取締役に就任。その後、社名変更を経て、現職。
現在まで約600社以上の組織・人材の活性化支援をおこなっている。チーム分析及びチーム編成に携わったのは,40万人、約60,000チームであり、チームビルディング、チーム編成の第一人者である。

A 16  B 9  C 14  D 17  E 3 / DAC

使命感、決断力をもって、有事に変革を推し進めることを得意とする。組織先導型。

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