古野のブログ

今のストレスチェックは機能しない

2016.04.21

「開示しては駄目」っていうのはおかしくない?

「ストレスチェック制度」がスタートしましたが、今年に入り、私たちのところにいろいろと相談をいただきます。「ストレスチェックをしなければならないのですが、FFSのストレス診断で代用できますか?」から「実施しましたが、今後どう対応したらいいかわかりません」までありました。皆さんの会社では、どんな運用をしていますか?

厚生労働省(以下厚労省)が音頭を取って導入された「ストレスチェック」ですが、安全衛生委員会が中心となり、個人が診断し、その結果は本人に返されます。本人が希望して初めて産業医との面談が可能となります。また本人の同意がない限り、人事や上司には結果が知らされません。これは『極めて重要な個人情報なので、人事すら見られない』というのです。一次予防重視と言いながら、結果的には二次対策になっているのです。
厚労省の資料を読むと「個人情報保護への配慮」として『労働者が安心してメンタルヘルスケアに参加できる条件』とあります。知られないことが「安心できる環境」なんですね。これ、変だと思いませんか? 特に一次予防は「未然に防ぐ」ことが主眼なのですから。

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まず、人事部門はもっと深刻な個人情報を持っています。「健康診断情報」「過去の病歴」「銀行口座」「住所や連絡先」等々。この「ストレスチェック」のデータだけ特別視する理由がわかりません。
また、当然ですが極めて神経質な個人情報を扱っていますので、人事部門は職業的に倫理観があるはずです。それも信用されていないようです。
また、現場の直属上司にも開示されません。

例えば、結婚式に呼ばれ祝辞を述べたり、昔なら仲人をするのが直属の上司(最近は極端に減ったようですが)です。ご両親にも挨拶するような間柄ですよね。でも、ストレスチェックの世界では、『安心できない相手』という定義で「データは開示してはならぬ」のです。厚生労働省の方々、諮問委員となった専門家の方々の考え方では、「企業の中で関わる人たちの誰も安心できない人」ということになります。但し、安全衛生委員会と産業医、保健師だけは特別なのですね。なぜでしょうか? 不思議に思えてならないのです。
誰がこのことを決めたのか、直接聞きたいくらいです。

さて、我々はメンタルヘルスに関しては、やはり現場、特に上司の重要性を語っていますが、厚労省もその部分を疎かにはしていません。厚労省資料では、ラインによるケアとして、管理監督者は、まず「いつもと違うことに気づいて、積極的傾聴し、情報を提供し、必要に応じて産業医、保健スタッフへの相談や受診を促す」とあります。
これを全てできる管理監督者がどれだけいると思いますか? こんなことが出来る管理監督者ばかりであれば、今の状態になっていないはずです。出来ていないから、新しい基準が必要になったのです。それにも関わらず、まだ管理監督者に幻想を抱いているのです。

弊社が実施する管理職向けのチームビルディング研修では、〝部下の強み弱みを把握し、育成にコミットできている〟と思われる管理職は、ちゃんとしていると思える企業でも1/3程度です。2/3は、「育成できていない」「把握していない」もっと悲惨なのは「対話すら出来ていない」という有り様です。これは管理職研修や定期的な上司-部下面談が充実していて、それなりに昇格基準に則って昇格してきた方々がいる優良企業の場合です。そんな企業ほど時間も予算も余裕のない中で経営している企業では、「対話すら出来ていない」率が極端に高まっています。これが現実なのです。

関わり方を変えることは出来る

今回の施策を打ち出した厚労省は『ストレスの原因』を調査しています(労働者健康状況調査=平成19年)。その結果、一番の問題は「職場の人間関係の問題」(38.4%)なのです。職場の人間関係…、つまり一番影響しているのは上司なのですね。我々独自の調査では、「部下の成長と一番相関が取れるのも上司との関係」でした。つまり、上手く育てられるもメンタル不全になるも、「上司との人間関係」と言い換えることができるでしょう。

しかし、だからと言って「配置・配属を変えること」は現実的には、ほとんど出来ません。ただ、上司が部下との〝関わり方〟を変えることは可能です。そのためには、なぜ上手くいかないのか、どうすれば上手く関われるのかを知ることが重要になります。
813d48cbe3fabd38d8fa20ea8b041186_s2厚労省の指針にあるように「上司は部下の話しを積極的に傾聴する」とあります。とても大切で否定するものではありません。しかし、この『積極的傾聴』は、とても難しいのです。プロのカウンセラーやコーチにならないと無理です。さらに、傾聴しつつ課題を見出し、場合により指摘しアドバイスまで必要になるのです。誰が管理監督者をそのレベルまで育成するのでしょうか? 厚労省の指針は、理想論であり、幻想に近いものだと思うのです。
今、現場は「具体的なハウツー」を求めています。そのために、部下の強み弱み情報からストレス状態のデータを渡してあげて、ストレス対処法から育成方法、さらには面談方法まで教えるという〝手取り足取り〟をしてあげることが必要なのです。
まずは一次予防ですから、対処療法で十分だと思います。まずは上司-部下が対話できるような支援をすることからスタートし、徐々に根本的な対策に踏み込むことが求められるでしょう。

株式会社ヒューマンロジック研究所 代表取締役

古野 俊幸(ふるの・としゆき)

関西大学経済学部卒。
新聞社、フリーのジャーナリストなどを経て、1994年、FFS理論を活用した最適組織編成・開発支援のコンサルティング会社・CDIヒューマンロジックを設立。
CDIヒューマンロジックのホールディングカンパニーとして、1997年に株式会社イン タービジョンを設立し取締役に就任。2004年4月からインタービジョンの代表取締役に就任。その後、社名変更を経て、現職。
現在まで約600社以上の組織・人材の活性化支援をおこなっている。チーム分析及びチーム編成に携わったのは,40万人、約60,000チームであり、チームビルディング、チーム編成の第一人者である。

A 16  B 9  C 14  D 17  E 3 / DAC

使命感、決断力をもって、有事に変革を推し進めることを得意とする。組織先導型。

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