古野のブログ

本当に進化型なの?

2018.10.01

「ティール組織」に関しての四方山話

凄く流行っていますね
「なぜ、そこまで」というのが正直な感想です。いい本だと思いますが、諸手を挙げて歓迎できるほどではありません。「セムラーイズム」を読んだ時の衝撃、読後のすがすがしさはなく、「なるほどね。でもさー」という感想なのです。
それを紹介していきたいと思います。

「ティール組織」の特徴をまとめてしまえば、
『自分たちの存在理由を問いかけながら、信頼を基盤にして一体感を持ち、自主的な運営をしていく組織』です。とても賛同します。拡散性が高い私の個性からすれば。かなり理想的な組織でもあります。
しかし、だからと言って、組織論・編成論に携わる私が、手放しでこの本を歓迎している訳ではありません。逆に流行に乗って『賛同し過ぎ』に警鐘を鳴らすのが〝らしい〟かと思って、評論してみたいと思います。

納得できないのは3つあります。

1.進化型と定義していますが、セムコ社を含めて結構以前から実践されている企業がある
2.過去の組織形態をかなり悪者にして、あまりに「ティール組織」を美化し過ぎじゃないか (進化論と発達心理学に根付いているとは言うものの、持論を肯定するが故だろうが)
3.欧米と日本の民族性の違いから日本では違和感がある
ということです。

1.すでに実践されている企業がある
・セムコ社
「セムラーイズム」を初めて読んだ時、まさに「奇跡の経営」と感じたのでした。「時間は自由」「報酬は自分で決める」「組織図がない」「全員で決める」等々。ティール型でも紹介されています。
跡を継いだ二代目のセムラー氏が、倒産寸前を立て直すプロセスで体調を崩し、悩んだ挙句に行き着いた経営方針です。事業継承の経営課題を解決していく人間臭いドキュメンタリーでした。セムラー氏の個性も色濃く投影されているのではないかと思います(この経営者の個性による経営スタイルは後述します)。結果的に実現した奇跡。この著書の方が学びは多かったです。

さて、日本で最近実践されている身近な企業として・星野リゾートを考えてみましょう。
弊社の出版物にもいろいろと協力をしてくれている前田はるみさんが書いた「トップも知らない星野リゾート」(PHP THE21編集部)では「フラットな組織文化」「社員が勝手に決める」「立候補制度」等が紹介されています。まさにティール型の要素を持つ組織です。
原稿からキーワードを拾ってみました。
・仕事を楽しむ
・部門やポジション無関係にフラットな議論ができる
・様々な立場の人を議論に加える
・トップの合意がなくても現場で決められる(誰かの指示に頼らない)
・ポジジョンに就くことは「発散」ポジジョンから外れることを「充電」と呼び、自由に選択できる
この著書には、最前線のスタッフが自らの疑問からアイデアを生み出し、行動して実現した事例が多数紹介されています。「ティール」とあえて定義しなくても、こうした事実から新しい組織や人のあり方を感じることができるのです。
星野さんがインタビューに答えて「誰がどんな意見であるかをまったく気にせずお互いの意見を戦わせて議論できる。最前線のスタッフに至る誰もが可能な限り同じレベルで会社情報にアクセスできる」ことを実現させています。企業文化として定着しているため、普段の営みに反映している感じです。
肩肘張って〝ティールを目指そう〟なんて、ちょっとウザい感じがするのは、私だけでしょうか?

日本にもフラットで何でも言い合える組織風土を持った創造的な組織はありました。古くはホンダ、ソニー、それからリクルートやIT系ベンチャーの中には多数。ただ創業期だから出来た組織でもあり、ある規模になった後も実現しているとは言い難い企業の方が多いのも事実です。
これら実現していた組織は「働くことがそもそも楽しい」「より難易度の高い仕事に挑戦できる(仕事の報酬は仕事)」「上司の指示を聞かない」とワークモチベーションを掻き立てる運用になっていました。
ホンダの創業者である宗一郎さんの「俺の指示なら何でもするのか? バカ野郎!死ねと言っても死なないだろう。だから自分で考えろ」なんて、まさに愛情を感じる〝自分で決めろ〟というメッセージです。
ホンダには、いろいろな逸話があり、ホームページで紹介しています。
オデッセイの開発においては、「業務が何も与えられない=放置される」「予算がないから知り合いを口説いて手伝ってもらう」「人づてに秘密のネットワークが作られる」等々
自らの使命である(自分の存在意義)
目的が明確=考え方や最終製品の意義で以て、周囲を共感させる(一体感)
指示がなくてもやり続ける(自主性を重んじる)
「二階に上げて梯子を外し、下から火をつける」しかし、失敗しても責任は不問である
こんな風土があったのです。
部下からの相談に対して上司は「お前はどう思うのだ」と逆に質問し返す風土がありました。

つまり、「存在意義を問う」「一体感がある」「信頼」「自主自立」が主題であるなら、あえて「ティール」と定義しなくても学べる多くの教材が近くにあるということなのです。
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それでは、日米のFFSデータから見える集合個性を比較してみましょう

日本人の平均は
受容性と保全性が高いです。
順番でいえば受容性・保全性。・弁別性・拡散性・凝縮性です
米国平均の順番は凝縮性・弁別性・拡散性・受容性・保全性です

日本人は「面倒見が良く柔軟で、明確な方針に従い、それを維持改善しながら居心地の良いように仕組化していくことが得意」となります。
米国人は「こだわりが強く、合理的に白黒はっきりさせて、動くことで解決していこうとすることが得意」です。
お互いが補い合える関係なのですが、真逆なので、米国で当たり前なことは日本では当たり前ではありません。

日本企業には、昔から家長的な組織風土がありました。経営者が親であり、社員は子供たちという構図です。もちろん、社員の家族も含めて〝見守り続ける〟という立場です。
これは〝家族的な信頼〟をベースにした組織運営であり、生涯の面倒を見るという「終身雇用」もその一つの現れだったのです。

一方、米国の風土は、価値観に共鳴した上で、お互いに合理的な存在(ドライな関係)として、一人ひとり個としての動きを尊重しようと言えるでしょう。

ちなみに米国では一般的に職務要件(ジョブディスクリプション)が明確で、仕事に人が張り付く傾向が強く、日本では職務範囲が曖昧で、組織への帰属の方が優位となる傾向が強いのです。「ティール組織」で示している「一体感・全体性」は職務帰属ではなく、皆で助け合うという意味では互いが組織に帰属しているという意識から醸成される関係を示していると考えられます。
つまり、米国的企業において『足りなかった側面』を補うことで実現できた「ティール組織」ではないかと感じるのです。
ちなみにティール型組織では組織を「家族」と例えているのは多元型(グリーン)組織として進化の前段階と定義しています。

逆に日本では一体感・全体性や信頼に基づく関係が醸成されやすい反面、自分たちで決めていく、存在意義がブレないという価値観を徹底することは弱いのです。〝おもてなし〟の気持ちは形成されやすいのですが、受け入れ過ぎて、ブレてしまうことが多々あるようです。

つまり、日本の企業では、信頼できる経営者や上司からの明確な指示を、皆で力を合わせてきちんと仕上げる組織=「一体感」「全体性」が自然に生まれ、社員はそれを味わうことが出来るのです。

以前、ホンダでエアバック開発を担当された責任者のKさんにインタビューをしたことがあります。その時に、ご本人と開発に至ったチーム員にFFSの診断をお願いして(十年以上の昔の話なので)、何とか診断をしていただきました。結果を見ると、チームとして補完関係が成り立っている良い関係性だったのです。
その後Kさんは退職されて「ホンダ イノベーションの神髄」を出版されたので、「そのチームの関係性を紹介させて欲しい」と考えて、お会いして許可をいただこうとしたときのことです。
Kさんは「イノベーションなんて、現場のチームだけで出来るものではない。衝突実験の失敗続きで、毎週毎週億近いお金を使っていて、さすがに申し訳ないと思って『もう止めましょう』と社長に報告に行った時、『命を守るための開発だ。それくらいの費用でホンダはつぶれないから、ジャンジャン使え』と言われた。だから世界初が生まれたんだよ。イノベーションはトップの度量と関与抜きにしてありえない」と言われて、一喝されました。

まさにトップは社員を信頼し任せて、社員もそのブレない方針と庇護の元で日々の仕事に取り組める。この組織、人間関係を、「ティール組織」なら、どう評価するのでしょうか? 旧来的な達成型(オレンジ)組織ですかね…。

星野リゾートでも「希望すれば全ての情報は見られる環境で、フラットで自由な議論が出来る」のは、星野佳路さんが「経営トップにいたから実現できたこと」と考えるのがスムーズではないでしょうか? つまり、いなくても実現出来たか? という問いかけに通じます。
星野さんを観察していると「あるべき」が強く凝縮性の高さを感じます。また、きわめて合理的で弁別性も高く、同時に拡散性の高さも感じます。因子の順番にするならほぼ近似値だと思いますが、弁別性・凝縮性・拡散性でしょうか。

セムコ社のセムラーさんは、FFSの診断をしていただいておりませんが、私の観察によると「弁別性と拡散性が高く、凝縮性よりも受容性が高い人」でしょう。自由でフラットな組織を目指す気持ちは、その個性通りなのです。
ホンダも星野リゾートもセムコも、成熟したトップが存在する企業と私は理解しています。

まとめましょう。
3つの論点
1.セムコ社や星野リゾート等が実践していたことから、特に「進化型」とは思わない
3.日本人の平均値と欧米の個性の違いから、日本人にとってティール組織の定義は短期的ならあり得るが、長期的には無理がある(ホンダ等に日本人に向く組織があった)
2.上記「1」と「3」を考えれば、美化し過ぎと思う(参考に出来ると評価はするが)

では、『日本的な理想があるなら』と考えてみました。
日本の企業の多くは受容性と保全性の風土ですから、凝縮性・弁別性・拡散性か受容性・弁別性・拡散性の高い経営トップが、高い視座と大局観を持ち、一人ひとりの成長を皆で支えていく家族的な組織風土を築けることが〝企業価値を長く保っていける〟のだと思います。昔から言われていた『エクセレントカンパニー』そのものではないかと思います。「ティール型」なんて定義する必要はなさそうです。

株式会社ヒューマンロジック研究所 代表取締役

古野 俊幸(ふるの・としゆき)

関西大学経済学部卒。
新聞社、フリーのジャーナリストなどを経て、1994年、FFS理論を活用した最適組織編成・開発支援のコンサルティング会社・CDIヒューマンロジックを設立。
CDIヒューマンロジックのホールディングカンパニーとして、1997年に株式会社イン タービジョンを設立し取締役に就任。2004年4月からインタービジョンの代表取締役に就任。その後、社名変更を経て、現職。
現在まで約600社以上の組織・人材の活性化支援をおこなっている。チーム分析及びチーム編成に携わったのは,40万人、約60,000チームであり、チームビルディング、チーム編成の第一人者である。

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使命感、決断力をもって、有事に変革を推し進めることを得意とする。組織先導型。

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