古野のブログ

匿名のエンゲージメントサーベイで大丈夫?

2019.01.24

 最近「エンゲージメントサーベイ」を取り入れる会社が増えているようです。以前のブログでも紹介しましたが「パルスサーベイ」等で、組織の状態を可視化することは、とても良いことだと思います。但し…。
 知り合いから相談がありました。
 「導入したんだけど、なんとなく犯人捜しみたいになって、余計に雰囲気が悪くなった」というのです。
それって「無記名なんですか?」と聞くと「そうです」と回答されました。
よく聞くと、状態が悪い部門の課長に『結果を踏まえて、改善策を考えて欲しい』と伝えると 「俺、頑張っているのに、なぜなんですか? 誰だよ、調子悪いなら直接言って欲しいのに」と、やや疑心暗鬼になっているみたいなんです」と。
これは360度評価を導入している会社でも「無記名」で運用されているケースでよく聞く問題です。

ではなぜ、このような「エンゲージメントサーベイ」「ESサーベイ」「360度」等が匿名の仕組になったのでしょうか?
それは、『回答のし易さ』を優先したからです。「誰が回答したかわかると厳しく答えられない」という声があり、「本音で忌憚なく回答出来るように」と配慮したからです。特に日本人は平均で受容性と保全性が高いですから、相手のことを慮りやすい傾向はあります。
しかし、それが余計にややこしい問題を生んでいます。

・「匿名」「無記名」になっていると仮説・検証が出来ないこと(結果的に対策を立案できない)
・「最低3名以上じゃないと結果が出ない」等の不都合さ
・フリー記述が重要なのに、特定されることを恐れて、明確に書かないこと
・そして、最近のSNSのような無責任な批判の温床

「誰」が「どんな状態」か個別に分かれば、依頼した業務内容、最近の仕事ぶり、会議の発言量等々、何が原因なのか? どうすれば解決できそうか? 具体的な話に落とし込みが出来ます。
FFS的に言えば、個性が違えば、『良かれと思って頑張れば頑張るほど、相手のストレッサーになってしまっているという擦れ違い』が発生しています。
従って、自分の個性と部下の個性を知った上で、誰々さんが「組織運営に不満がある」「上司の指示が曖昧だ」「チームの雰囲気が悪い」「ディストレス状態にある」等に回答していれば、「なるほど、自分の関与の仕方や伝え方が間違っていたな」とその理由が仮説立てられ、対策も具体的になるのです。
つまり、上司-部下の間においては『個性の違いから発生する問題』が圧倒的に多く、「能力不足」ではありません。そもそも本当に〝能力不足な人〟だったとすれば、そんな人をマネジャーにした会社の責任なのですから。

しかし、匿名では『チーム全体として状態が悪い』というだけで、誰がどんな状態か分かりません。
 マネジャーが優秀であれば、もし「状態が悪い」と報告されたら
「なるほど、これが原因かな?」→「直接聞いてみる」→「図星だ」→「じゃあ、こうしよう」と解決策まで導けます。ただ、それが出来るマネジャーならば、サーベイは不要でしょう。

しかし、その原因も解決策も分からないマネジャーが圧倒的に多いので、「状態が悪いぞ」と報告されても「えっ、どうしたらいいの」と追い込まれるだけなのです。
病院に例えると、診断してもらって「体調が悪いですね。あとは自分で原因を調べて、療養してください」と言われたようなものです。無責任と感じてしまいますね。
ちなみに、日本企業における課長職のマネジャーはほとんどがプレイングマネジャーです。一部の部長もそうです。第41回(2018年11月14日発行)のブログにも書きましたが人マネジメントの素人ですから、サポートしてあげることは大切なのです。

さて、「エンゲージメント」を辞書で調べみました。「愛着心からくる自発的な貢献意欲」とあります。自発的な貢献意欲ですよ。つまり、『エンゲージメント』を匿名で聞くこと自体に矛盾を感じてしまうのは僕だけでしょうか?

いや、同じ思いを持つ方がいました。
「NETFLIXの最強人事戦略」(光文社刊)の著者・パティ・マッコードさんが書いていました。

匿名調査の最悪な点は「匿名のときに正直になるのが一番だ」という誤ったメッセージを送ってしまうこと
外部の企業がお仕着せの質問を使っておこなう匿名調査では、信頼できる情報は得られないといいたかったのだ。

また、「エンゲージメント」という言葉が大嫌いと書いています。
「業務遂行上の問題はやる気不足に原因がある」という暗黙の前提が見え隠れするからだ
正直いって、そんなに単純な問題なはずがない。やる気がない人材を解雇するだけで高業績を挙げられるなら、どんな企業もとっくに大成功している。

さらにこんな記述もありました。まとめると
『知り合いが、満足度とやる気を可視化して、業績と照らし合わせると、ほとんどが相関あった。しかし、驚きは、業績が平均以下のチームでも「やる気と満足度は高かった」ケースがあったこと。つまり、やる気と業績はそんなに単純な関係にないことをはっきりと示している』と。

我々はチーム編成を意図的に出来ますので、そのあたりを実際に体験してもらいます。
似たもの同士を組み合わせる「同質編成」と、個性の違いがあるがチーム全体として補い合う「異質補完編成」でチーム意思決定や創造性開発のエクササイズです。
その体験をしてもらった後に「気分(満足度)は良かったか」と「チームとして生産性があったか」を比較するアンケートをします。
すると、同質編成は往々にして「気分(満足度)は高いが、生産性には疑問あり」
異質補完編成は「気分は良くない面もあったが、生産性は高い」と出るのです。
つまり、「満足度」と「業績」には、完全には相関はありません。但し、長期的な課題に対して、異質補完が出来るチームで取り組むと、お互いの強みが違うことで補い合い、チームとしての相乗効果を味わうことが出来ると、「満足度」と「業績」が共に高まることになります。

ということで、匿名のエンゲージメントサーベイは、矛盾や疑心暗鬼を生み、無責任な状態にしてしまう恐れがあります。また、サーベイ結果が良かったからと言って業績と相関が取れないとなると、何を目的にサーベイするのかが疑問にもなります。

とてもベタな話かもしれませんが、マネジャーが部下一人ひとりの個性を知り、「one on one面談」をする取り組みを見直しませんか?

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※「NETFLIXの最強人事戦略」(光文社刊)は最近読んだ中で、秀逸です。経営者視点で組織・人事を考えているからで、一般的な人事をほぼ否定しているところが爽快です。拡散と凝縮と弁別だと思います。
逆に残念だったのが、同じタイミングで読んだ「世界最高のチーム」(ピョートル・フェリクス・グジバチ著)でした。グーグル流とあったのですが、かなり一般論で期待外れでした。

株式会社ヒューマンロジック研究所 代表取締役

古野 俊幸(ふるの・としゆき)

関西大学経済学部卒。
新聞社、フリーのジャーナリストなどを経て、1994年、FFS理論を活用した最適組織編成・開発支援のコンサルティング会社・CDIヒューマンロジックを設立。
CDIヒューマンロジックのホールディングカンパニーとして、1997年に株式会社イン タービジョンを設立し取締役に就任。2004年4月からインタービジョンの代表取締役に就任。その後、社名変更を経て、現職。
現在まで約600社以上の組織・人材の活性化支援をおこなっている。チーム分析及びチーム編成に携わったのは,40万人、約60,000チームであり、チームビルディング、チーム編成の第一人者である。

A 14  B 10  C 15  D 17  E 4

使命感、決断力をもって、有事に変革を推し進めることを得意とする。組織先導型。

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