古野のブログ

「考える力が養われない」

2016.04.28

我々はチーム活動のなんたるか (良いチーム、悪いチーム) を知ってもらうために、様々なチームエクササイズを体験してもらいます。その際、その活動を評価し、課題を見つけて、気づきを得てもらう狙いで振り返りをします。例えば「ゴールの共有があったか」「コミュニケーションは円滑か」や「意思決定のプロセスはスムーズだったか」等いくつかの項目毎に5段階で評価してもらいます。

今年、ある企業の新人向けワークショップで、こんなことがありました。
新人たちがチーム活動の評価をしている時、なかなか決まらないチームがありました。そのチームを見ていた先輩社員が見兼ねたのか、こんなアドバイスをします。
「一人ひとりが評価し、平均したらいいだろう」と。

「あっ、これはまずいな」と感じたのです。

4名のチームです。例えば二人がとても良かったと思い「5点」をつけ、残りの二人が良くなかったということで「1点」をつけたとしましょう。平均すると「3点」です。この点数にどれだけ意味があるのでしょう。全員が「3点」をつけた時の平均と同じなのです(偏差を見ることはありますが)
重要なのは、「なぜ5点なのか」を二人が語り、「なぜ1点なのか」をもう二人が語り、「人は違うように感じるのか? そうなのか」と他者を知ることと、その相違点を議論することから、「他者」「チーム活動」「意思決定」等々を学ぶことなのです。
もちろん、時間は限られていますので、悠長なことは言えません。ビジネスである以上制約条件があるのも事実です。その中で議論することなのです。

さて、先輩社員はなにを考えて、アドバイスしたのでしょうか?
聞いてみると「意見がまとまりそうになかったので、時間内に終わらせることを優先してしまった」というのです。
「うーん、それで新人の考える力を養えると思うの?」とつい突っ込んでしまいました。

この先輩も、お互いが主張し合いながらトコトン議論することに慣れていないのです。もちろん、議論の末、物別れになることがあるかもしれません。それでも構わない。もし物別れになり決まらないとどうなるか?これは体験してみないとわかりません。
平均を出すのは一番簡単、安易な方法なんです。社会人の初期段階から〝安易な方法〟を学ばせてしまうことが問題なのです。

新人合宿では、こんなこともありました。
「今日、休ませてください」その理由を聞くと「熱が出そうなので」。
そこで体温計で測ると平熱より少し熱がある程度です。「これ以上熱が出ないように工夫する」とか「熱が出たら出たで周囲に迷惑が掛からないようにする」とか、休みたいと報告する前に考えることはたくさんあるのです。
もちろん、休むことも選択肢の一つかもしれませんが、カリキュラムに参加しないことで得られる知識や共通体験が欠けてしまいますし、さらにサポートしてくれるチーム員にも迷惑をかけてしまいます。なぜ自分事を優先して、安易な道を選ぶのでしょうか。

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また、チーム活動が振るわないチームがありました。そこで、引率の先輩社員がそのチームのリーダーを呼び出し、「リーダーとして、メンバーにもっと厳しくしたらどうか」と諭したところ「チームで対抗していく等、競争するのが好きじゃないし、人にとやかく言うのも好きじゃない」と言い出したのです。チームを競争させることは『チーム活動に真剣に取り組んでもらうための動機づけ』です。またリーダーに喝を入れるのは、リーダー役としての疑似体験をしてもらうためです。
ビジネスの世界は競争に浸されています。どうすれば競合に勝てるのか? どうすればお客様に支持されてシェアを伸ばせるのか? 毎日、毎日考え抜くことが求められます。また、リーダーは、チームを勝利に導くためメンバーとのやり取りが日課となります。にもかかわらず、「競争することも、人に意見を言うことも好きじゃない」で片付けてしまおうとしているのです。

これらの事実は、「安易な方法」を選んだり「その場限りの自己保身」的であったり、「好きじゃないことはやらない」であり、言い換えると「考えることを放棄する」態度と言わざるを得ないのです。
今後、ビジネスの荒波の中で生き抜いていけるのか心配になってくるのです。

ノーベル生理学・医学賞受賞者であるセベㇿ・オチョワの身体記憶に関する研究では
『筋肉はその限界まで使用していると、緊張状態(アドレナリンないしアセチルコリンが過剰分泌されている状態)では30%を限界に瞬間的に過剰反応をする。つまり100%の力が130%になる。しかし、通常、意識していようが無意識であろうが、筋肉をかばう(余裕と呼ばれる無意識に力を節約する状態の場合、統計的に70%前後となる)活動をしていると、余裕として残している部分を守るためにノルアドレナリンが分泌され血圧上昇や心拍を促進し、結果的に60の力しか出ない』
とあります。
つまり、一度自分の限界まで追い込んで「どうしたいのか」「どうありたいのか」をトコトン考えさせることが大切です。「ありたい姿」が明確でそれに近づきたいと思えば思うほど、今の状態でいいのかどうか疑問が湧いてきます。この疑問こそが、自己成長の鍵であり、業務については改革や改善の鍵となるのです。すると、安易な道を選びようがありません。自己保身している暇はありません。好きじゃなくても、ぶつかるしかありません。
しかし、この「ありたい姿」が不明確な人は、その時に一番安易な方法を選びやすくなるのです。

そろそろ、今年の新入社員たちが、集合研修から、現場に来る頃でしょう。
早めに「なぜ、なぜ」と投げかけて、『考えなくて済む逃場』を作らずに100%考えさせて〝自己対峙〟させることをお勧めします。最初は嫌な上司・先輩と思われるかもしれませんが、10年後20年後に感謝されますよ。それが本当の育むことなんです。

株式会社ヒューマンロジック研究所 代表取締役

古野 俊幸(ふるの・としゆき)

関西大学経済学部卒。
新聞社、フリーのジャーナリストなどを経て、1994年、FFS理論を活用した最適組織編成・開発支援のコンサルティング会社・CDIヒューマンロジックを設立。
CDIヒューマンロジックのホールディングカンパニーとして、1997年に株式会社イン タービジョンを設立し取締役に就任。2004年4月からインタービジョンの代表取締役に就任。その後、社名変更を経て、現職。
現在まで約600社以上の組織・人材の活性化支援をおこなっている。チーム分析及びチーム編成に携わったのは,40万人、約60,000チームであり、チームビルディング、チーム編成の第一人者である。

A 16  B 9  C 14  D 17  E 3 / DAC

使命感、決断力をもって、有事に変革を推し進めることを得意とする。組織先導型。

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